逃亡者の夢 ~こんな夢を見た~

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「逃亡者の夢 1」

地形も道路もわからぬ古い街のなか 喘ぎながら彷徨っている 表路地 裏路地 さび付いた非常階段のわき

逃げるように すり抜けるように 何度も人とぶつかりながら 怒鳴られながら すみませんを繰り返しながら

どこか 休み安らげる場所を目指しているようだ 昔から そうだったと思いながら 逃げている

ただガキの頃のほうが 逃げていることを 周囲から気づかれないことが多かった らくだったと 思いながら逃げている

警察やら やくざやら 特定の人から追われているのではない

「後ろを振り向いてはならない…」 振り向いて 追う者の正体を確かめたことはない

何から逃げているのかわからないから より苦しいのだ、と

ふと立ち止まって オレは何から逃げているのかと 自分に問いかけ うしろを振り返りそうになったところで 目が覚めた
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『後ろを振り返ってはなりません』 各地に残るこの伝承は逃亡者の心構えを伝えていると感じられる。「後ろ」は振り切らなければならないもの。何から何故逃げているのかを考えたり確かめたりしてはならない。

物心ついたときから、隠れられることの安心感を感じていた。 たとえばそれは絶対に侵入されることのない物置小屋の中であったり、川にかかる幅広な滝の裏側であったり、あるいは下からは見えない樹の上だったり。たとえば使われていない洞穴だったり。
正邪の区別もないまま、ある「秘密」を持てることはたしかに“宝物”であった。支離滅裂な、三次元を超えた空想(狂気)の世界にこころを解き放つこともできた。それも20世紀とともに終わった。“影の世界”は確実に追放されている。

中学生の頃、ようやくわが家に入った白黒テレビで、「逃亡者」をずっと家族で熱心に観ていた。「リチャード・キンブル」という名前は脳裏にしっかりと銘まれている。逃亡し続ける「やるせないこころ」は、父にも母にも私にも共通の、武力・権力・支配や謀略・陰謀などから逃げ続けてきた、日本住民共通に抱いている「トラウマ」ともつながっているように思う。

日本国の住民は、まだ一度も、自分の手で「民主主義」を勝ち取ったことはない。戦争にかり出され、死に直面し、壕に隠れていた異国の女子どもを生きたまま谷底に放り込んだ経験を持つ父親たちも、敗戦とともに故郷に帰り、戦死した仲間の墓をこっそり訪れながらも、国に文句ひとつ言わず、山を開墾して田圃づくりに黙々と励んだ。父が汗水流して開墾した山田は子どもであったわたしにとっても誇りだったが、やがてお国の減反政策によってわずかな保証と引き替えに木を植えることになってしまった。それでもなにひとつ文句も言わずに、時代に流されていった父の姿は、この国の農民の姿そのものだったと思う。生き方全体が「逃亡」の姿勢だと思う。

ブラジルの山岳民族で「ララムリ」と呼ばれる走る民族のドキュメントを見たとき、スペインなどの侵略者と戦うことを避け、支配され奴隷となることを拒み、山に登り、岩稜を走り続ける生活スタイルを守ることが自分や家族や仲間たちを守る方法だったのだということがよく理解できた。日本でも明治5年の修験道禁止令までは、一説によれば、数十万人の人々が世俗の秩序を離れ、山で生きることが出来たという。

21世紀、現代社会は、すべてのひとが“正々堂々”と、表の世界で、死角のないところで、見張られながら、相互監視し合いながら、言葉狩りしながら、紫煙狩りしながら、「影」や「闇」を持たさずに、作らせずに、“絵に描いた餅”のように、生きることを強制されている。監視カメラは至るところに設置され、スマホは常時位置情報とともに接続され、“善意”と書かれたお面(ペルソナ)をつけた大人たちが、保護のためと称し、隠れようとする子どもたちやおとなたちを追い回している。加害性は無くとも、ヘルメットやシートベルトによって自身の体を「社会秩序」に縛り付けることに抵抗感を覚えず、それが最低限のマナーとなっている。影を持てなくなったこどもたちは、透明な「トランスワールド」を嗅ぎ当てて逃亡していく。

子どもたちはかなり以前から逃亡を開始している。おとなたちとの、心を通わせる「ことば」を拒否し始めている。おとなたちの交わす肉声や言葉使いに反応できず、耳を塞ぎ、ウエブで流れる「マシン合成音声」や「初音ミク」の歌声に心が“共感”できる。それは、肉体を持った異性になんら関心を持てず、フィギュアで作られた異性やキャラクターにのみ心がときめくことと同じ道筋である。彼らと心を通わせるため、その「トランスワールド」に歩み出す、あるいは、あちらからの「信号」を受け、交信できるちからが、見守ろうとするおとなたちに求められている。

 

 

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