20221218 宣教要旨「棄民に向かうイエス」マルコ福音書5章1-20節 担当 金田恆孝

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本日の聖書箇所 マルコによる福音書5章 1−20節

一行は、湖の向こう岸にあるゲラサ人の地方に着いた。
イエスが舟から上がられるとすぐに、汚れた霊に取りつかれた人が墓場から出て来て、イエスに会った。
この人は墓場を住みかとしており、もはや誰も、鎖を用いてさえつなぎ止めておくことはできなかった。
度々足枷や鎖でつながれたが、鎖を引きちぎり足枷を砕くので、誰も彼を押さえつけることができなかったのである。
彼は夜も昼も墓場や山で叫び続け、石で自分の体を傷つけていた。
イエスを遠くから見ると、走り寄ってひれ伏し、
「いと高き神の子イエス、構わないでくれ。後生だから、苦しめないでほしい」と大声で叫んだ。
イエスが、「汚れた霊、この人から出て行け」と言われたからである。
イエスが、「名は何と言うのか」とお尋ねになると、「名はレギオン。我々は大勢だから」と答えた。
そして、自分たちをこの地方から追い出さないようにと、しきりに願った。
ところで、その辺りの山に豚の大群が飼ってあった。
汚れた霊どもはイエスに、「豚の中に送り込み、乗り移らせてくれ」と願った。
イエスがお許しになったので、汚れた霊どもは出て、豚の中に入った。すると、二千匹ほどの豚の群れは、崖を下って湖になだれ込み、湖の中で溺れ死んだ。
豚飼いたちは逃げ出し、町や村にこのことを知らせた。人々は何が起こったのかと見に来た。
そして、イエスのところに来ると、レギオンに取りつかれていた人が服を着、正気になって座っているのを見て、恐ろしくなった。
成り行きを見ていた人たちは、悪霊に取りつかれた人に起こったことや豚のことを人々に語って聞かせた。
そこで、人々はイエスにその地方から出て行ってもらいたいと願い始めた。
イエスが舟に乗ろうとされると、悪霊に取りつかれていた人が、お供をしたいと願った。
しかし、イエスはそれを許さないで、こう言われた。「自分の家族のもとに帰って、主があなたにしてくださったこと、また、あなたを憐れんでくださったことを、ことごとく知らせなさい。」
そこで、彼は立ち去り、イエスが自分にしてくださったことを、ことごとくデカポリス地方に言い広め始めた。人々は皆驚いた。

 

宣教の要旨「棄民に向かうイエス」

 『(神がしんがりに立たれる。我らも)向こう岸へ渡ろう』と、イエスはガリラヤ湖の東、ゲラサ(ケルサ・ケルゲサ)に仲間とともに向かった。そこはアレクサンドロス大王の死後、部下によって建てられたデカポリス十の町の一つ。横穴式墓地の残る、崖が聳り立つ棄民収容の場所らしい。革手錠、足枷で自由を奪われ、死ねば墓に葬られるだけの“棄民の地”だった。

 大声でわめき暴れている男は、おそらく解離性多重人格(多くの人格が統合されずに敵対しつつ共存している)なのだろう。イエスは「名は何と言う?」と、固有の、一つの名を問われた。返事は、だからレギオン(おおぜい)なのでしょう。

 イエスたちに助けや救いを求める“こころ”や、怒りや悲しむ“こころ”や、死を願う“こころ”などが溶け合うことなくぶつかって発熱しています。

 心理療法の中に“一喝療法”があります。噴出するマグマのように暴れる心の中心に向かって大声で、通る声と言葉で一喝するのです。助けを求めている“こころ”もあるからこそ通じ届く「声」なのです。大勢の群衆に向かって舟の上から声を届けることのできる大声をイエスは持っていました。

「レギオン」にはもう一つの意味がありました。古代ローマ帝国軍団の大部隊の名称。騎馬兵300人を含む5千人以上の兵士団。イエス誕生後のAD6年。ローマ帝国への納税を拒否したガリラヤのユダを中心とした反乱軍が蜂起し、鎮圧され、殺された人々がガリラヤ街道沿いに2000本の十字架に見せしめで架けられた事件が記録されています。
 “その男から出た「憤怒の穢れた霊」が2000匹の豚に入って溺れ死んだ”とは、この「悲しい蜂起」に散っていった魂たちが重ねられていると思われます。

「この地から追い出さないでくれ」の願いとは、愛する友や家族などのところに帰りたい願いがあるのでしょう。その願いを応援するイエスたちや仲間たちとは異なり、彼らを邪魔者と感じ、あるいは恐れて、帰ってきてほしくない、同じ村や街にいてほしくない、棄てたい人々も(現代も)いるのです。
「そこで、人々はイエスにその地方から出て行ってもらいたいと願い始めた。」
イエスたちの行為は歓迎されず「出ていってくれ」と追われたのです。

 今の時代と何も変わらない「現実」があります。

 

先週の出来事

 裸で暴れて愛知県岡崎署留置場に11月25日から勾留されていた男が革手錠や戒具で百時間以上全身拘束され、後頭部を便器に突っ込んだまま12月4日死亡した事件が起こった。食事や、糖尿病の治療薬も与えられず死亡診断書は脱水症。現代の棄民政策は私たちのすぐ横にあることに改めて身震いする。

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